こんにちは。研究員の鈴木みくです。
 
今回は、「日常芋飯事」の主原料として使われる、さつまいもの食べ比べの様子を紹介します。

さまざまな品種について、食感、甘さ、香りなどの持ち味を分析しました。
農林水産省の発表によると、2020年に普及している品種は60種以上もあるんです。
  
みなさんは、幼少期の芋堀りや焼き芋大会の記憶は残っていますか?
大地に触れながら芋を掘り起こし、太いもの細いもの、形が曲がったもの、いろんな芋を手にして笑った記憶。
みんなで落ち葉を集めて焼き芋大会をして、漂ってくる甘い香りにワクワクしながら待った記憶。
私はさつまいもの味はもちろん好きですが、そんな楽しい記憶を蘇らせてくれるさつまいもの存在そのものが好きです。

このおやつの開発を始めるまで、私はさつまいもといえば赤紫色の皮に黄色い中身のいくつかの品種しか知りませんでした。あとは、沖縄の紅いもですね。
でも、ふかしたさつまいもそのものは食べたことがなく、お土産の紅いもタルト等を食べたことがあるくらい。
このプロジェクトで、さつまいもの深くて広い世界を知ったのです。

品種別に食べ比べたさつまいもの写真がスマホに残っていました。こうしてみると、色も形も違い、もちろん味も全く違います。それぞれに個性があります。
 
たまたま残していた写真(上)に写っているのは7種類ですが、その他にも徳島の鳴門金時、石川の五郎島金時なども食べました。
さらには海外のさつまいも加工品も入手。品種としては15品種くらいは食べたと思います。

最初は、「将来、製造用にたくさんの量を入手できる品種を選ぼう」と思ってスタートしたのですが、さつまいもって本当に奥深く、その世界にハマりました。
魅力のひとつは、同じ品種でも土壌や育て方が違うと味が異なること。
作っている農家さんによっても違うのです。
ある品種のさつまいもを産地別に比較し、食感や甘さの違いに驚きました。

また、多くの人が親しんでいる品種は何かと、スーパーマーケットを回りました。
関東のスーパーの青果売り場でよく目にするのは、昔ながらの「紅あずま」。
根強い人気で、ほくほくと懐かしい食感に心がホッとします。
焼いただけでスイーツのような蜜感のある「紅はるか」、ほくほくとなめらかな「シルクスイート」は石焼き芋売場でも人気を博していました。
比較的新しい品種の「クイックスイート」も、電子レンジで加熱しても甘くなり、ねっとりとみずみずしい味わいが特徴です。

最近は焼き芋の専門店もあり、珍しい品種やこだわった焼き方の焼き芋を食べては、感想を記録。
芋つながりでじゃがいもの品種比べも楽しくなってしまい、果肉が黄色くねっとりしている「インカのめざめ」に注目。
じゃがいもなのにさつまいもや栗の風味に似ているのです。ふかして食べたら、甘くておいしい。これは感動していました。
この頃になってくると、趣味として家でもいろいろ食べまくっていました。
さつまいもを美味しく焼くことを追求した結果、自宅に石油ストーブまで買ってしまったんですよ。
 
さて、研究所内での検討の話に戻ると、まずは味を知るためには研究所のオーブンで焼いて、そのまま食べます。
そして、少量を裏ごしして、舌ざわりややわらかさなどを確認していました。  
先日、プロジェクトメンバーから「そんなに食べ比べたのだから、印象的なのを2つくらい教えて」と質問されました。

どのさつまいももそれぞれが美味しく、可愛くさえあり、本当に絞るのが難しいのですが、あえて挙げると、まずは「あやこまち」。
これは、果肉がはっとするほど鮮やかなオレンジ色で、美しいのです。味わいは人参やかぼちゃに通じる“野菜感”がある風味です。
軽い酸味もあり、これまで知っていたさつまいもの概念を覆されるようで驚きました。
もうひとつは冒頭の写真の左下にも写っている「コガネセンガン」。
芋焼酎の原料となる品種なので、おそらく鹿児島県の芋焼酎に関わる方々にとってはメジャーな品種です。
さつまいもなのに皮も中身も白く、武骨な形状も印象的でした。
写真は他の品種となるべくサイズをあわせるために一番小さいものを選んでいたのですが、かなり大きくてごつごつしているものが多いです。
焼いてみると、優しい甘みと、でんぷん質のほくほくとした食感が特徴です。食感を分析しながら「長年の研究の結果、芋焼酎に適したさつまいもが開発されてきたんだなあ~」と歴史に想いを馳せた時間でした。
調べてみると、コガネセンガンは1966年生まれ。
焼酎好きな研究者が生み出したという記事を見つけました。農作物には、人の愛や思いが本当によく詰まっているんだな……と。

品種を食べ比べて感じたのは、品種改良は歳月と手間をかけて行う大事業だということ。そうして品種は産まれているのだと感じました。
 
さて、さつまいもに全身全霊の愛を注いでいる私が「日常芋飯事」の主原料に選んだのは、「紅はるか」です。
全国各地で愛されるだけあり、さつまいもらしい風味、甘さ、スイーツに適した蜜感、ほどよくほっくりとする食感が際立っています。これが決め手となりました。

これは余談ですが、ご縁があり東南アジアの焼き芋ペーストを試食させていただきました。
甘いけれども瑞々しく、南国の風土に合う味なのです。やはり、風土の特徴って現れるんですね。
その産地のものをいただくと、旅気分に浸れる……そんなことを感じました。