こんにちは。研究員の鈴木みくです。
「日常芋飯事」の再販にむけて準備をすすめておりますが、その間の読み物としてお楽しみいただけたら嬉しいです。
今回は「日常芋飯事」の味を作るのに大きな役割を果たしている、「芋麹」をご紹介します。
育休中の体験から、「さつまいもを使って、日常生活の小さなしあわせに気づくきっかけになるようなおやつを作りたい!」と思い、職場復帰した2019年に鹿児島県に日帰り弾丸出張をしました。
この時に出会った地元の研究者の方、そしてそこからつながった農家の方、麹作りのプロの方、多くの方との出会いとご協力でこのおやつがうまれました。
おやつを作るうえで、どうしてもこだわった芋麹。
まず、麹といえば、お米の麹(米麹)を思い浮かべると思います。
これは蒸したお米に麹菌を種付けし、育てたものです。
家庭でも米麹を使って甘酒や調味料の塩麹をつくったことがある人もいらっしゃいるでしょうか。
このプロジェクトを始めるまでは、米麹しか知らなかったのですが、調べると、芋麹、麦麹、豆麹などもあると知りました。
私が大事にしていたことは大きくふたつ。
心からほっくりできるように、できるだけシンプルな原料で作ること。
それから、さつまいもの素材感をしっかりと保ちながら、スイーツならではの満足感もあるということです。
米麹を使っても味は充分美味しいのですが、このふたつが開発者としてどうしても譲れないポイントだったので、「芋麹」であることにこだわりたかったのです。
さて、ここで麹菌についてご説明したいと思います。
麹菌は、食品の発酵を促す微生物のひとつです。
発酵食品を作るのにかかわる微生物は多々ありますが、麹菌はさまざまな酵素をつくりだすという特徴があります。
この酵素が「日常芋飯事」のさつまいもの甘さを引き出すカギになっているのです。
麹菌をさつまいもに植え付けると、酵素を生み出しながら繁殖します。
この酵素がさつまいものデンプンを分解して糖に変えます。
この時間や麹菌の量を調整することで、甘さの調整をしていったのです。
反応時間を長く、添加量を多くすればいい、というものでもなく、麹菌が酵素をたくさん生み出す温度や湿度の条件、さらには酵素がよくはたらいてくれる温度条件なども関わってくる、とても奥深い経験でした。
そんな珍しい芋麹ですが、芋焼酎の製造が盛んな九州地方の一部の醸造元さんで原料として使われています。
多くの芋焼酎は米麹と蒸したさつまいもで作られていますが、芋麹を使った芋焼酎にこだわって製造されている醸造元さんが数軒いらっしゃると伺っています。
ただし、どこの醸造元さんにとっても大事な焼酎のための芋麹。
当然、門外不出だったり数量が限られていたりして、「少し分けてください」「はいどうぞ」というわけにはいかず、しばらくは私がさつまいもを細かく切ってふかし、研究所のシャーレの中で麹菌を愛でながら育て続ける数か月間でした。
もう、米麹を使うしかないのかな・・・という考えが頭をよぎりながらも、諦めきれずにいた頃。
とあるきっかけで、焼酎屋さんではない、麹作りのプロの方々と出会うことができ、お話をすると共感していただいて、その日のうちに「いいよ、作ってあげるよ」とトントン拍子にお話が進んだのです。
本当にうれしく、奇跡のような出会いでした。
この出会いがあったからこそ「日常芋飯事」のいまがあり、ご縁に感謝の気持ちでいっぱいです。
鹿児島県のさつまいも農家さん、芋麹を作ってくださった方々など、いろいろな方のご縁と想いがつながって、昨年第一回目の数量限定販売を行うことができました。
余談ですが、麹菌についてもうひとネタ。
麹菌が酵素を産生し、デンプンを糖に分解すると甘さが引き出されるというお話をさせていただきましたが、他にも、タンパク質を分解すると、うまみの元となるアミノ酸になります。
味噌や醤油にうまみがあるのは、麹菌が生み出す酵素が、大豆のタンパク質を分解しているからなのです。
麹菌が生み出す酵素を利用して、日本では、日本酒、焼酎、味噌、酢、醤油、味噌などの発酵食品が作られてきました。日本食に欠かせない食材ばかりです。
日本を代表する国花は桜、国鳥はキジ、国蝶はオオムラサキ……そして、国菌は麹菌なのです。(2006年日本醸造学会大会で認定)
「日常芋飯事」を食べると心がほっくりするのは、私たちのルーツに深く関わる麹菌を使っているからかもしれません。
余談の余談・・・
私は日常芋飯事の研究開発とともに麹菌の奥深さにプライベートでもはまり、味噌づくり、塩こうじ、しょうゆ麹・・・と家でも楽しんでおります!
下の写真は一緒にイベントをしてくださった管理栄養士の@かなみさんに教えていただいたにんにくしょうゆ麹。
米麹にしょうゆをひたひたになるまで注ぎ入れて、にんにくをスライスしていれておけば、常温で発酵がすすみ、毎日一回かき混ぜるだけで徐々にうまみと甘みが増してきます。
変化していく味に驚かされ、お肉や魚を漬け込んで焼くだけでも、炒めものでも、ドレッシングに使っても、たまらない美味しさです!!
芋麹をおうちで使うのはちょっと難しいですが、米麹ならスーパーで簡単に手に入りますし、麹を楽しく取り入れていきたいですね。
2022/07/29 14:59